東京家庭裁判所 昭和56年(家イ)6822号
一 当事者全員は、被相続人太田巳吉(昭和五一年一月八日死亡)の遺産につき、同人死亡後現在までの葬儀費用・固定資産税その他の管理費用等について清算するため、その一部を次のとおり分割する。
(1) 相手方太田史男は、本件遺産等に関する立替金二〇五万五、二八七円に相当するものとして、別紙第一遺産目録記載のものを取得する。
(2) その余の遺産は別紙第二遺産目録記載のとおりであり、これらは審判による分割とする。
(3) 別紙第二遺産目録記載の土地及び建物に対する昭和五六年度の固定資産税のうち今後納付すべき金額(九万六〇〇円)及び同目録(4)記載の借地に対する昭和五六年一一月以降の賃借料の負担については、当事者間で後日協議するものとする。
(家事審判官 木村要)
別紙遺産目録<省略>
〔参考〕 東京家 昭五三(家)二六〇号 昭五七・二・一九審判
主文
一 別紙第二遺産目録(1)記載の土地およびその地上の別紙第一遺産目録(3)記載の建物(含物置部分)は、申立人井川成子、同小谷町子の持分各二分の一の割合による共有取得とする。
二 別紙第二遺産目録(2)記載の土地およびその地上の別紙第一遺産目録(2)記載の建物(含物置部分)は、相手方太田史男の単独取得とする。
三 別紙第一遺産目録(4)(5)記載の土地(借地権)、建物は、申立人金井伸子の単独取得とする。
四 別紙第一遺産目録(6)ないし(9)記載の貸付信託債権、預金債権は相手方佐田高子の取得とする。
五 申立人金井伸子は、前記三項による遺産取得の代償として、相手方佐田高子に対し金八、七一五、九二六円を支払え。
六 相手方太田史男は、前記二項による遺産取得の代償として、相手方大山かつゑに対し金一八、一七四、〇七四円を、同佐田高子に対し金六、七三二、七〇四円をそれぞれ支払え。
七 申立人井川成子、同小谷町子および相手方太田史男は、別紙第一遺産目録(1)記載の土地につき、第二遺産目録記載の如く二分するため分筆登記手続せよ。
八 審判費用はこれを七分し、その二を相手方太田史男の、その余の一ずつをその他の当事者の各負担とする。
理由
(申立の要旨および事件の経過)
申立人らは、「被相続人太田巳吉は、昭和五一年一月八日東京都港区において死亡して相続が開始し、同人の子である申立人らおよび相手方ら六名が相続人であるところ、遺産の分割について再三協議するも、遺産の範囲さえ確定できない状況で協議が調わないので、遺産の分割を求める。」として調停の申立をした。
本件については、多数回にわたり調停期日が開かれたが合意が成立せず審判手続に移行した。審判手続においても審理と併わせて和解の勧告も行われたが、当事者間に感情的な対立が強いこともあつてまとまらず、ただ遺産の管理費用、法定果実、葬儀費用、相続債務等を清算し、審判において分割すべき遺産の範囲を明らかにするため、家財道具、預貯金等遺産の一部について、一部分割の調停が成立し、本件審判の対象とすべき遺産について当事者の合意が得られた段階となり審理を終えたものである。
(当裁判所の認定と判断)
1 相続人とその法定相続分
被相続人太田巳吉は昭和五一年一月八日死亡し、同人の妻ヒサはそれより以前昭和三〇年に死亡しているので、巳吉の相続人は、ヒサとの間の子である申立人井川成子(四女)、同金井伸子(三女)、同小谷町子(七女)、相手方太田史男(三男)、同大山かつゑ(長女)、同佐田高子(五女)の六名であつて、他にないこと(なお、長男、二男、二女、六女はいずれも本件相続開始前に死亡し、子はない。)が戸籍謄本その他一件記録により認められる。
したがつて、同人らの法定相続分は計数上六分の一宛であること明らかである。なお、持戻しの対象とすべき特別受益は相続人のいずれにも認められない。
2 遺産の範囲等
被相続人巳吉の遺産のうち、本件審判で分割の対象となるものは別紙第一遺産目録記載のとおりである。これ以外の若干の遺産(家庭用財産、預貯金債権の一部等)については、昭和五六年一二月二二日一部分割の調停が成立し、別紙第一遺産目録記載の遺産を審判の対象とすることで当事者間の合意ができたもので、右遺産の存在については審理の結果明白である。
同目録(1)記載の土地上に同目録(2)、(3)記載の建物があり、現在右(2)の建物には相手方史男が、右(3)の建物には申立人成子がそれぞれ家族とともに居住している。なお、同目録(2)の建物内に便所が、同目録(3)の建物内に浴室があり、それらは右両家族で共用している。ほかに同目録(1)記載の土地上には、右(2)、(3)の建物にそれぞれ接続して木造平家建物置があるが評価額は零である。また、右(2)の建物に接して東側に本造平屋建の建物(床面積二四・七九平方メートル)があるが、これは相手方史男が被相続人から敷地を借りて建てたもので、相手方史男固有のもので、第三者に賃貸している。
同目録(5)記載の倉庫は、第三者に賃貸してあつたが、昭和五六年一二月二四日明渡しとなり、現在賃貸関係等はない。
3 遺産の評価
別紙第一遺産目録(1)ないし(5)記載の物件についての評価額は、鑑定の結果によれば、鑑定時である昭和五六年六月一〇日現在で、それぞれ右目録に記載したとおりである。なお、第一遺産目録(6)ないし(8)の貸付信託、普通預金については審理終結時に近接する時点での現在高である。
そこで、具体的相続分等算出の基礎には第一遺産目録記載の遺産価額を用いることとし、その合計額は一二八、二九四、四四八円である。
4 寄与分
相手方史男は、旧制中学校卒業後被相続人巳吉の営む自転車修理販売業を手伝い、やがて中心となつてその経営にあたり遺産の取得、維持に多大の貢献をしているので、寄与分として遺産の二分の一を取得したい旨主張し、これに対し、申立人成子、同町子はいずれも相手方史男の寄与分を認めることに反対し、相手方かつゑは寄与分を認め申立人伸子、相手方高子は僅かな程度なら認めるとしている。
そこで検討するに、当事者全員に対する各尋問の結果その他本件審理の結果によれば次の事実が認められる。
(1) 被相続人巳吉は、現在相手方史男が居住している第一遺産目録(2)記載の建物にほど近い借家で自転車修理販売業を営み、妻子と共に生活していたところ、昭和二四年ころ土地区画整理のため移転することになり、代替地として第一遺産目録(4)記載の借地権を無償で取得したが、営業の場所としては問題があつたので、別に第一遺産目録(1)記載の土地を払下げにより取得し、ここに同遺産目録(2)記載の店舗兼居宅を建築して昭和二七年三月ころ転居し、同所で自転車修理販売業を続けた。さらに、同二八年ころ、右店舗兼居宅の裏に第一遺産目録(3)記載の建物を建て浴室、物置として使うほか学生相手の貸間として貸料収入をはかつた。
次いで、被相続人は、昭和三四年ころ第一遺産目録(4)記載の借地上に倉庫を建築し貸倉庫として賃収入をうるようにしたが、この建築資金は借主から受領した敷金によるものであつた。その後、昭和四四年ころ右倉庫は建て替えられ同目録(5)記載の倉庫となつたものである。
(2) ところで、前記土地の払下げ代金および第一遺産目録(2)、(3)の建物の建築費用は、親戚の者からの借入金約二五万円、住宅金融公庫からの借入金約三六万円などで賄つたが、これらの返済は、自転車修理販売業による収入、貸間、倉庫の賃料、移転補償金などによつてなした。
(3) 被相続人は、昭和三〇年に妻を失い、相手方史男の一家と共に、第一遺産目録(2)記載の店舗兼居宅に引続き生活していて急死したが、同人は前述の貸倉庫の賃料収入などもあり、晩年も経済面の援助を相手方史男から受けることはなかつた。被相続人の一家は、主として自転車修理販売業による収入や賃料収入で生計をたてていたが、相手方史男以外は、以下にのべるように順次結婚して別に世帯をもつようになつていつた。
(4) 相手方史男は、昭和二三年に旧制中学校を卒業して家業の自転車修理販売業を手伝うようになり、やがて被相続人と共同して仕事をしていたが、昭和三九年に結婚後はほとんど仕事をまかされ、妻子や被相続人と共に第一遺産目録(2)記載の店舗兼居宅に居住し営業してきたものであって、勿論被相続人から給料などを得たわけでもなく、格別固有の資産を取得したこともない。
(5) 相手方かつゑは、昭和一七年に高等女学校を卒業後、昭和三〇年ころまで海軍参謀本部陸地測量部などに勤務したのち、同三二年に結婚して家を出た。働いた給料はほとんど家には入れなかつた。
(6) 申立人伸子は、昭和二七年高校卒業後から同三〇年七月まで証券会社に勤務し、その間給料の二分の一程度を家計に入れた。証券会社を辞めたのは、母ヒサが死亡したので家事をするためであつた。昭和三九年に相手方史男が結婚してからは家事はやらなくなり、パートタイマーなどで働き、自分の生活費はそれでまかなつていたが、昭和五一年に結婚して家を出た。
(7) 申立人成子は、昭和二九年に高校を卒業し、主に家で家事や洋裁の内職をしていたが、収入のうち若干は被相続人に渡していた。同三八年結婚し、第一遺産目録(3)記載の建物に住むようになり、当初は一階のみを使つていたがやがて一、二階共使用するようになり今日に至つている。
(8) 相手方高子は、昭和三一年高校を卒業後同三九年三月ころまで会社勤めをし、同四〇年結婚して家を出た。給料のうち、若干は食費などとして家計に入れた。
(9) 申立人町子は、昭和三八年に高校を卒業後保険会社に勤め、昭和四四年に結婚して家を出た。家にいる間は給料のうち若干を家計に入れた。
上記事実によれば、相手方史男は昭和二三年から被相続人の死亡するまで約二七年間にわたつて、被相続人の家業である自転車修理販売業に従事し、その間被相続人と世帯を同じくして生活し、自己や結婚後はその妻子が右家業の収入により生活したものの、給料等の報酬をうけることもなかつたものであつて、相続財産の増加、維持については、他の相続人に比べると特段の寄与をしているというべきであり、同人はその分相続財産中に潜在的な共有持分を有していると考えられるので、本件遺産分割にあたつては、これが清算をすべきものである。そして、前記事実その他本件でみとめられるすべての事情を総合考慮したうえ、本件で分割すべき第一遺産目録記載の遺産総額一二八、二九四、四四八円の約一五%である一九二五万円を寄与分として相手方史男に与え、右遺産総額からこれを控除した残額を全相続人により法定相続分により分割すべきものと判断する。
5 各人の具体的相続分等
前記寄与分を前提に各人の取得額を計算すると、
(遺産総額-寄与分)×1/6 = (128,294,448円-1925万円)×1/6 ≒ 18,174,074
で、相手方史男を除く各人の取得分はそれぞれ一八、一七四、〇七四円、相手方史男のそれは寄与分一九二五万円に右金額を加えた三七、四二四、〇七四円となる。
6 分割の方法
(1) 各人の生活状況、取得希望など
<1> 申立人成子は、前記のとおり、昭和三八年に結婚以来今日まで第一遺産目録(3)記載の建物に居住し、会社員の夫、高校生、中学生、小学生の子各一名と共に生活している。法定相続分に相当する分だけ右建物とその敷地を申立人町子と共有で取得し、共同で三階建程度の建物を新築し居住したいと強くその取得を希望している。
<2> 申立人町子は、会社員の夫、小学生の子二名、未就学児一名と社宅に生活しているが、会社に持家制度が定められていて社宅の入居期限が切迫しているので、申立人成子と共同で住宅を新築したいとして、同人と同じ希望をもつている。
<3> 申立人伸子は、目の不自由な夫と都営住宅に入居しているが、夫が鍼・灸・マッサージを職業とし、別に診療所を借りて営業しているが、不便であるので、第一遺産目録(4)、(5)記載の倉庫とその借地権を取得し、同所を居宅兼診療所としたい。代償金として一、〇〇〇万円程度であれば一時払いできるとしている。
<4> 相手方史男は、前記のとおり、第一遺産目録(2)記載の店舗兼居宅に妻と中学生を長子とする子三名と共に居住、営業しているが、同目録(1)、(2)記載の土地、建物を全部取得し代償金を支払う。代償金は四、〇〇〇万円程度なら一時払いすると述べている。
<5> 相手方かつゑは、夫に死別し、保険勧誘員などして働き、都営住宅で生活している。子は二一歳と一八歳の男子がある。分割については、相手方史男が広く取得できるようにしてもらいたい。自分の分は代償金でよいと述べている。
<6> 相手方高子は、会社員の夫、中学生、小学生の子各一名と社宅に居住しているが、分割については金銭での取得を希望している。
(2) 上記によれば、相手方かつゑ、同高子については金銭取得とすることで問題はない。問題は、不動産取得を希望する申立人ら三名と相手方史男の取得物件であるが、前記事実その他本件でみとめられるすべての事情を総合考慮したうえ、申立人伸子に第一遺産目録(4)、(5)記載の土地(借地権)、建物(倉庫)を取得させ、なおその価額二、六八九万円は前述の取得すべき額一八、一七四、〇七四円を超えるので、超過額八、七一五、九二六円を代償金として相手方高子に支払わせることとし、申立人成子、同町子には同人ら両名の取得分価額三六、三四八、一四八円に相当するものとして、第一遺産目録(8)記載の建物および同目録(1)記載の土地のうちの右建物の敷地部分を右金額に相当する面積だけ持分二分の一の割合で共有取得させることとする。そこで、前記取得分価額三六、三四八、一四八円から右建物の価額四二七、〇〇〇円を控除すると三五、九二一、一四八円になるところ、第一遺産目録(1)記載の土地の一平方メートルあたりの価額は、評価額九、七三〇万円÷一七〇・三一(平方メートル)≒五七一、三一一円で、約五七一、三一一円であるから、右三五、九二一、一四八円に相当する土地面積は、三五、九二一、一四八÷五七一、三一一≒六二・八七で約六二・八七平方メートルとなるので、結局この広さの第二遺産目録(1)記載の土地部分を取得させることとする。ついで、相手方史男には現に居住、営業している第一遺産目録(2)の店舗兼居宅と同目録(1)の土地のうちの右建物の敷地部分等である第二遺産目録(2)記載の土地を取得させることとするが、計算すると右両物件の評価額の計は六二、三三〇、八五二円となり、前記取得分価額三七、四二四、〇七四円を超えているので、超過額二四、九〇六、七七八円を代償金として、このうち相手方かつゑの取得額一八、一七四、〇七四円を同人に、残額六、七三二、七〇四円を同高子に支払わせることとする。他に同高子には第一遺産目録(6)ないし(9)記載の債権計二、七二五、四四八円を取得させる。これにより同人の取得額合計は一八、一七四、〇七八円となる。このように分割するのを相当と考える。
なお、別紙第一遺産目録(2)、(3)の建物内の浴室、便所の使用については、改築等のなされるまでの当分の間は現状どおり共用をつづけるよう協議すべきであろう。
7 以上のとおり分割し、これに伴い第一遺産目録(1)記載の土地については、第二遺産目録記載の如く分筆登記手続を命じ、審判費用についてはこれを七分し、その二を相手方史男に、その余の一ずつを他の当事者にそれぞれ負担させることとし、主文のとおり審判する。(家事審判官 木村要)
別紙遺産目録<省略>